北インド古典音楽について
インドの芸能において広く使われるサンギータという言葉。これは3つの言葉「ギタ(声楽)、ヴァッデャ(器楽)、ヌリッティャ(舞踊)」の組み合わせによって成り立ち、この言葉は幾つかの古代の文献「ラーマヤナ(紀元前300年)、マハバラタ(紀元前200年)など」にも見つける事ができます。北インドの歴史上、後に西から流入してきたイスラーム文化と土着のヒンドゥー文化の両方に影響を受けており、特にムガール王朝時代に北インドの古典音楽は宮廷音楽として大きく発展を遂げ現在のような形になりました。
北インド古典音楽はラーガ(旋律的テーマ)とターラ(リズムパターン)の2つを厳密に意識した上で即興的に演奏され、メロディー奏者とリズム奏者が緩やかなテンポから徐々にスピードを上げて徐々にクライマックスに至るその音楽形態は、甘美さと激しさ、スピリチュアルでありながらエンターテイメント性に溢れており、まさにヒンドゥー文化とイスラーム文化が融合して生まれた産物と言えます。近年ヨーロッパの一部ではインド古典音楽を、その音楽形態の独自性から民族音楽の枠を越えた新しい音楽ジャンルとして確立しようとする動きもあり、インド音楽の幅は世界的な物となりつつあります。
マイハール・ガラナ(流派)について
石濱匡雄の演奏スタイルはマイハール流派と呼ばれますが、本来マイハール流派という流派は存在しません。15世紀の音楽家ミャーン・タンセンの流れを組む音楽流派はセニ(又はセニア)ガラナという流派なのですが、後にその直系の1人アラウッディン・カーンが演奏スタイルや楽器に様々な改良を加えて、大きく発展を遂げた現在の演奏スタイルを、後に人々がアラウッディン・カーンがマイハール藩の宮廷音楽士だった事からマイハール流派と呼ぶようになりました。このマイハール流派の特徴は他の器楽の演奏スタイルが声楽を模倣する物が殆どだったのに対して、器楽として独自の世界観を創ったと言われています。この流派が有名になったのは、アラウッディン・カーンが教育者として多数の有能な弟子を育てた功績もあります。その中にはシタール奏者のラヴィ・シャンカール、サロード奏者のアリ・アクバル・カーン、バハドゥル・カーン、映画音楽で有名だったティミル・バランなどが居ます。ドゥルパッドという重厚なスタイルをベースにしながらも器楽ならではの現代的要素も見られ、シタールでは2大流派の1つと言われています。
https://www.youtube.com/watch?v=y_ZEFpyNqoc
1963年に制作されたアラウッディン・カーン氏のドキュメンタリー映像