シタールについて
シタールは今日の北インド古典音楽の中で大変ポピュラーな楽器の一つであり、古典音楽以外にも幅広いジャンルで使われています。1970年代にビートルズが楽曲にシタールを使用した事もあり、その頃からシタールの知名度は世界的な物となりました。そしてシタールは現在でも様々なジャンルの音楽で使用されています。
シタールの歴史はインドで数多くの古い文献にも登場するトゥリ・タントゥリ・ヴィーナ(サンスクリット語で3弦楽器の意)を元に、後になり北インド古典音楽の歴史においての大変重要な人物でもあるアミール・フスロー(1253年~1325年)の手により発明されたというのが今日の一般的な説で、シタールの直接の語源となったのはペルシャ語で3弦を意味するセタールと言われています。現在でもイランなどでは同名の楽器が使われています。その頃のシタールが一体どのような形状をしていたかは不明ですが、長年に渡り様々な形状や素材を用い改良が施され、比較的近年になり7弦のシタールに共鳴弦が取り付けられた物を元に、流派や演奏家のスタイルによって弦の数や形に更なる改良が施された現在のシタールになりました。
現代のシタールの一般的な素材は共鳴胴の部分に巨大な瓜を用い、表板や竿にはトゥン、チークなどの木材が用いられます。石濱匡雄の奏するマイハール流派のシタールは4本の主奏弦に3本のリズム弦、そして13本の共鳴弦の合計20本の弦から成っており、ヴァイオリンのような高音域からチェロのような低音域まで幅広い音域を出す事が可能で、シタール上部には低音域を増幅させる働きのある取り外し式の瓜をもう一つ装着します。このような構造により現代のシタールは奥行きのある音色と、一本の楽器が演奏されているとは思えないようなリズムと旋律が重なった幅広い表現が可能な楽器です。
楽器製作者について
石濱匡雄が高校時代からお世話になっている楽器職人が居ます。それは今インド国内で最高齢の楽器職人とも言われる有名な楽器製作家、ヘメン・チャンドラ・セン氏です。ヘメン氏は現バングラデシュのクミッラに居た当時の有名な楽器製作家アヤト・アリ・カーン氏の工房で幼少の頃から楽器職人としての研修を積んでこられました。後にカルカッタに自身の楽器工房HEMEN&COを開いて以来、シタールのみならず様々な楽器において、彼の作品はインドのトップミュージシャン達に愛用され、インドのメディア等でもインドのストラディヴァリウスとして称されてきました。残念ながら2010年にヘメン氏は87歳で亡くなられましたが、ヘメン氏の死後も彼の作品は多くのミュージシャンに愛され続けています。
現在はデリ―の楽器職人サンジャイ・シャルマ氏に楽器のメンテナンスや改造等をお願いしています。サンジャイ氏は故ラヴィ・シャンカール氏の楽器制作や調整を行っていた人物で、常に時代に合わせた革新的なアイディアで新素材の使用や内臓マイクの考案などシタールをより現代的な物へと進化させています。